飲食店の倒産が、過去にないペースで増えています。東京商工リサーチの調査によると、2026年1〜6月の飲食業倒産は509件。1997年以降の30年間で、上半期として初めて500件台に乗りました。
なかでも目を引くのが、「人手不足」関連の倒産が36件と、前年同期の2.2倍に急増している点です。客足や物価高だけでなく、「働く人を確保できないから店を続けられない」という倒産も、はっきり増えています。
この記事では、調査の数字を確認したうえで、飲食・小売の現場が打てる手を「採用」と「定着」の両面から整理します。
この記事でわかること
- 2026年上半期の飲食業倒産で何が起きているか(一次情報の数字)
- 「採用」でできること。集めるより先に、取りこぼしを減らす
- 「定着」でできること。最初の2週間の受け入れと、辞める理由の把握
※この記事の情報は2026年10月6日時点のものです。
目次
- 飲食業の倒産509件、人手不足関連は前年の2.2倍
- 「採用」でできること|集める前に取りこぼしを減らす
- 「定着」でできること|最初の2週間がいちばん大事
- 採用と定着はつながっている
- まとめ
飲食業の倒産509件、人手不足関連は前年の2.2倍
東京商工リサーチが公表した2026年上半期の飲食業倒産の調査から、主な数字を挙げます。
出典:東京商工リサーチ「2026年上半期『飲食業』倒産 過去最多の509件」
| 項目 | 2026年上半期 | 前年同期比 |
|---|
| 飲食業倒産 | 509件 | +5.3%(初の500件台) |
| うち「物価高」関連 | 86件 | +53.5%(約1.5倍) |
| うち「人手不足」関連 | 36件 | +125.0%(2.2倍) |
| うち居酒屋 | 118件 | +31.1%(初の100件超) |
図1:2026年上半期の飲食業倒産(件数と前年同期比。居酒屋以下は内訳)
飲食業倒産509件(+5.3%)
居酒屋118件(+31.1%)
物価高関連86件(+53.5%)
人手不足関連36件(2.2倍)
数字は本文の出典(東京商工リサーチ)と同じです。
調査では、小規模・零細の飲食業ほど食材費や水道光熱費などのコスト上昇の負担が大きく、客数減少への懸念から値上げなどの価格転嫁が難しい実態も指摘されています。
人件費も同じ構図です。最低賃金の引き上げで募集時給の相場は上がり続けており、「採用にかけられるお金は限られているのに、採用の難易度は上がる」という板挟みが、人手不足関連倒産の急増の背景にあると考えられます。
だからこそ、限られた予算で「採用の歩留まり」と「定着」を良くすることが、そのまま店の存続に直結します。
「採用」でできること|集める前に取りこぼしを減らす
求人にお金をかけて応募を増やす前に、いまの応募を取りこぼしていないかを確認するほうが先です。
応募への連絡を当日〜翌日に返す
アルバイト・パートの応募者は、多くの場合、複数のお店に同時に応募しています。連絡が遅いほど、先に返事をくれたお店に流れていきます。応募が入ったら当日、遅くとも翌日には連絡する。店長が店舗業務で返せないなら、定型文の準備や担当の割り振りなど、「誰がいつ返すか」を仕組みにしておきます。
求人票は「読んだ人が初日を想像できるか」で見直す
「ホールスタッフ募集・時給○○円」だけの求人票は、条件の比較でしか選ばれません。仕事内容を最初の1ヶ月でやることまで分解する、シフトの組み方の実例を書く、職場の写真を載せる。入ったあとの自分を想像できる求人票は、応募の質も変えます。
求人を出しっぱなしにしない
同じ原稿を何ヶ月も掲載し続けると、求職者には「ずっと人が足りていないお店」に見え、媒体によっては表示順も下がりやすくなります。月に一度は原稿を見直し、写真や文言を入れ替える。応募が止まった求人は、時給より先に原稿の鮮度を疑ってください。
ミスマッチを面接前に減らす
忙しい時間帯・土日の扱い・立ち仕事の体力面など、あとで辞める理由になりやすい条件ほど先に伝えるのが結果的に近道です。面接や初出勤まで進んでから辞退されるのが、時間の面でもっとも高くつきます。
過去の応募者・元スタッフに声をかける
新しい応募を待つだけでなく、過去に応募してくれた人や、円満に辞めた元スタッフは有力な候補です。「また人を募集しています」と連絡するだけなら費用はかかりません。一度働いた経験のある人は教育の手間も小さく、定着もしやすい層です。
在籍スタッフからの紹介を仕組みにする
知人の紹介で入った人は、職場の実情を聞いたうえで来るため、ミスマッチが起こりにくい採用経路です。「紹介してくれたら」と口頭で頼むだけでなく、紹介の声かけ用のメッセージ文面を用意して渡すなど、スタッフが動きやすいお膳立てまでやると機能し始めます。
「定着」でできること|最初の2週間がいちばん大事
人手不足への対策は、採用で補充し続けることではなく、辞める人を減らすこととセットで初めて成り立ちます。早期離職が多い職場は、採用費をかけても穴の空いたバケツに水を注ぐことになるからです。
初日の受け入れを設計する
初日に「とりあえず見てて」で放置された経験は、そのまま早期離職につながります。初日にやること(誰が迎えるか、何を教えるか、休憩や更衣の案内)を1枚のチェックリストにしておくだけで、受け入れの質は安定します。
最初の2週間は「教える係」を決める
新人がわからないことを聞ける相手を、シフト上で明示します。「全員で教える」は「誰も教えない」になりがちです。教える係を決め、2週間後に一度「困っていることはないか」を聞く場を持つ。これだけで、「行きづらくなって辞める」を減らせます。
勤務1ヶ月目に短い面談をする
採用時に聞いていた希望と、実際に働いてみての感触は、たいていずれます。勤務開始から1ヶ月前後で10分の面談を入れ、シフトの負担感・人間関係・仕事の難易度を聞く。辞めたくなってから聞くのではなく、辞めたくなる前に聞くのが定着面談の原則です。
シフトの公平感と、辞める理由の把握
希望シフトの通り方に不公平感があると、不満は言葉にならないまま退職として表れます。また、辞める人には差し支えない範囲で理由を聞く。本当の理由がすべて聞けるわけではありませんが、同じ理由が続けば職場側の課題です。
「この人しかできない仕事」を減らす
特定の人しかレジを締められない、発注ができるのは店長だけ、という状態は、その人の退職が店の危機に直結します。主要な業務は最低2人ができる状態を目標に、日々のシフトの中で少しずつ教え合う時間をつくる。人手不足倒産の多くは、突然の退職に店が耐えられないことから始まります。
採用と定着はつながっている
定着が良くなると、採用はこう変わります。
受け入れ・定着が良くなる
→ 辞める人が減る
→ 補充のための採用数が減る
→ 採用費と教育の負担が下がる
→ 浮いた余力を時給や職場改善に回せる
→ さらに人が定着しやすくなる
逆に、定着を放置したまま採用だけ強化すると、この循環が逆回転します。倒産統計が示す「人手不足」は、集められないことと辞められてしまうことの両方の結果です。打ち手も両面で考えてください。
図2:今日から着手できる打ち手の整理
採用|取りこぼしを減らす
- 応募への連絡を当日〜翌日に返す
- 初日を想像できる求人票にする
- 月に一度は原稿を見直す
- 辞める理由になりやすい条件を先に伝える
- 過去の応募者・元スタッフに声をかける
- 在籍スタッフの紹介を仕組みにする
定着|最初の2週間を設計する
- 初日の受け入れをチェックリストにする
- 最初の2週間は教える係を決める
- 勤務1ヶ月目に短い面談をする
- シフトの公平感と辞める理由の把握
- 主要な業務は最低2人ができる状態に
まとめ
- 2026年上半期の飲食業倒産は509件と30年で最多水準。人手不足関連は前年同期の2.2倍に急増している
- 採用は「集める」前に、応募への即日対応・求人票の情報量、事前のミスマッチ解消で取りこぼしを減らす
- 定着は初日と最初の2週間の受け入れ設計から。定着の改善は採用費の削減として返ってくる
- 主要な業務を複数人でこなせる体制にして、突然の退職に耐えられる店にしておく
倒産件数という大きな数字の裏にあるのは、一つひとつのお店の「人が採れない・続かない」です。どれも今日から着手できる打ち手ばかりなので、まずは応募への返信スピードと、新人の初日の受け入れから見直してみてください。
※この記事の情報は2026年10月6日時点のものです。倒産統計の詳細は東京商工リサーチの調査記事をご確認ください。